読む前に押さえたい

この記事のポイント

  • 事業で使っている知的財産と、それを使える根拠を対応させる。
  • 登録情報、契約、制作・開発の記録を混ぜず、証拠の連なりを確かめる。
  • 重要な不明点を専門家へ渡し、資料不足を権利がないことと同一視しない。
  • 買収後に必要な利用・管理の条件を、調査の段階から洗い出す。
01

1.知財の一覧から、事業を続けるための調査へ

知的財産のデュー・ディリジェンスでは、特許や商標が何件あるかを集めるだけでなく、何を販売し、どの技術や情報を使って価値を生み出しているかを確認する必要があります。登録された権利の一覧が整っていても、主力製品で使う技術の利用条件や、外部へ委託した制作物の扱いが分からなければ、買収後の運営を考える材料は足りません。

特許庁のIP BASEに掲載された知財DDの手順では、事業内容を把握したうえで、投資目的や日程などを踏まえて調査範囲を考える進め方が説明されています。本稿は、その公的な手順を出発点に、編集部が中小企業のM&Aを検討する担当者向けに整理した実務上の提案です。個々の権利の有効性や契約の解釈を、この記事だけで判断するものではありません。

最初の問いは、「対象会社が何を持つか」だけではなく、「引き継ぎたい事業は何を使えることに依存するか」です。商品名、製造方法、設計データ、顧客向けのソフトウェア、販売資料などを、事業の流れに沿って並べます。そのうえで、対象会社が保有しているもの、他者から利用を認められているもの、根拠がまだ分からないものを区別します。

買収の目的によって優先順位は変わります。技術を活用して製品を広げたい買収と、店舗の運営を引き継ぎたい買収では、最初に確かめる対象が同じとは限りません。調査に使える時間と費用も踏まえ、重要な対象を深く確かめる計画を作ります。目録を完成させることより、事業計画の前提を確かめることを調査の目的に置きます。

調査で扱う知財は、対象会社が自分で使うものだけとは限りません。顧客へ提供する成果物、共同で使っている資料、取引先から預かった情報も、事業の継続に関係する場合があります。保有資産の棚卸しと、他者の情報をどう扱うかという確認を分ければ、対象会社のものと説明してはいけない資料を、一つの資産一覧へ取り込むことを避けやすくなります。

02

2.製品・工程・情報を、一枚の対応表にする

調査の入口では、製品やサービスから逆にたどる表を用意します。主な製品、工程、販売経路を行に置き、それぞれで使う技術、名称、資料、データ、システムを記入します。「知財」と呼ばれていなかった作業の中にも、他社の許諾や特定の情報に依存する部分があるかもしれません。担当部門が普段使っている呼び方で集め、後から専門的な分類と対応させます。

例えば、製品の図面と製造条件が別々に管理されている場合、図面だけを見ても製造を再現できないことがあります。商品名の使用と、販売ページの写真や説明文の利用も、確認する資料は異なります。一つの商品だから権利や契約も一つだと考えず、継続に必要な要素へ分けると、調査対象から抜けているものを見つけやすくなります。

表には、業務上の重要性と、確認に使う資料の場所を添えます。売上への寄与が大きい対象だけでなく、代替に時間がかかる対象、停止すると納品や保守ができなくなる対象も優先候補になります。重要性は担当者の評価として記録し、既に確認した事実と分けます。高い価値を説明されたこと自体は、その価値を裏付ける証拠ではありません。

この表は技術担当だけで作り切らず、営業、製造、情報システム、契約を扱う担当者の説明を突き合わせます。同じ対象が別の名称で登録されていたり、現在は使っていないものが重要資産として残っていたりするためです。疑問が出た行を削除して形を整えるのでなく、誰へ何を確認すればよいかを残し、調査の依頼へつなげます。

編集部作成の表:編集部提案:事業から知財の調査対象を探す表
編集部提案:事業から知財の調査対象を探す表
表の内容をテキストで読む
編集部提案:事業から知財の調査対象を探す表
事業の場面使っている対象最初に確認したい根拠
主力製品の製造図面・製法・加工条件作成経緯、管理場所、外部技術の利用契約
商品を販売する名称・ロゴ・写真・説明文登録情報、制作契約、利用範囲の記録
ソフトウェアを提供する自社コード・外部部品・運用データ開発契約、部品一覧、利用条件
顧客の保守を続ける設定情報・技術資料・更新手順保管場所、アクセス権限、継続利用の条件
03

3.権利の来歴を、資料のつながりで確かめる

重要な対象を決めたら、「誰が作ったか」「どのような契約があるか」「現在は誰の管理下にあるか」を順にたどります。過去の会社名や組織の変更、共同開発、外部への委託が関係している場合は、その経緯も確認します。現在の担当者が自社のものと認識していることと、その説明を裏付ける資料がそろっていることを分けて扱います。

資料を確認するときは、対象の識別をそろえます。契約には旧製品名、開発記録には案件番号、台帳には現在の商品名が記載されていることがあります。それらが同じ対象を指すのかを確かめないまま資料を集めると、別の成果物に関する契約で説明してしまう可能性があります。名称の対応表や版の記録は、内容を専門家へ渡す前の重要な整理です。

証拠が途中で途切れる場合は、その場所を明示します。委託したことは分かるが最終契約が見当たらない、譲渡の合意らしい文書はあるが対象の範囲を特定できない、といった状態です。資料がないことから権利がないと結論を出すことも、長年使っているから問題はないと結論を出すことも避けます。追加で確認できる相手や記録を挙げます。

編集部の提案では、根拠の欄に文書名だけでなく、確認した版、対象、説明を受けた相手、未確認の点を付けます。専門家は法的な論点を評価し、事業担当者は運営への影響を評価します。その間をつなぐために、何を事実として共有しているかをそろえます。判断の記録を残すことで、後から新しい資料が出た際にも見直す箇所が分かります。

作成した対応表には、根拠へ戻れる識別を付けます。ファイルの場所だけでなく、文書の日付、対象の版、関係する製品を記録しておけば、資料の名前が似ている場合も取り違えに気付きやすくなります。共有資料へ原本を直接書き込むのではなく、調査上の説明と原本を区別し、何が当事者の文書で、何が調査側の整理かを分かるようにします。

04

4.登録された権利は、番号だけで評価しない

特許や商標など、登録情報を確認できる対象では、名称や番号を手掛かりに、当事者から受けた一覧と公表情報の対応を確かめます。関連する製品や事業、現時点での使用状況も併せて確認します。番号が列挙されていることだけで、買収後の計画に必要な範囲を利用できると判断しないようにします。具体的な権利の範囲や状態の評価は専門家へ相談します。

確認する国や地域は、現在の販売先だけでなく、買収後の計画と関係します。ただし、将来の展開先を広く挙げるだけでは調査が際限なく増えます。既に決まっている計画、検討段階の案、今回の判断には使わない可能性を区別し、優先順位を決めます。事業の担当者が何を想定しているかを伝えることが、調査範囲を適切にするための前提です。

対象会社が権利者であることと、その事業を制約なく実施できることを一つの確認にしないことも大切です。他者との契約や、別の権利に関する問題が検討事項になる場合があります。どこまで調べたかを明示せずに「知財確認済み」とまとめるのではなく、登録情報との照合、契約の確認、専門的な調査の対象を分けて記載します。

費用と日程の制約がある場合は、何を省いたかを残します。重要な製品を優先して確認したのか、対象地域を限定したのか、ある論点は今後の専門家の調査を待っているのかを説明します。調査を実施したという事実だけを、すべての権利問題が解消したという意味で使わないことが、経営会議で誤った安心を作らないために必要です。

05

5.制作物とソフトウェアは、作られ方から調べる

ソフトウェア、設計資料、画像、説明文などは、成果物のファイルが保存されているだけでは利用の根拠が分かりません。誰が、どのような立場で作成し、何を合意したのかを確認します。社員が作った部分、委託先が作った部分、外部の素材を利用した部分が混在している場合は、成果物を一括して自社制作と扱わないようにします。

開発や制作の経緯は、契約書にすべて書かれているとは限りません。仕様の変更、追加の作業、外部の部品を採用した判断などが、発注記録や議事録に残っていることもあります。IP BASEの知財DDの手順も、書類確認に加えてヒアリングなどを組み合わせる進め方を扱っています。資料と担当者の説明が違う部分を、追加確認の対象にします。

ソフトウェアを調べる場合は、公開している画面だけでなく、どのコードや外部サービスが動作を支えているかを整理します。利用条件の解釈を技術担当だけで決めるのでなく、部品の名称や版、取得元、使い方を専門家が確認できる状態にします。一般的なライセンス名を見ただけで、現在の提供方法が認められるかを結論付けないようにします。

納品済みのファイルと、変更・再配布・運用に必要なものも区別します。実行できる状態にあること、変更するための資料があること、その作業を行える条件が確認できていることは別の事項です。買収後の改善計画があるなら、何を変更したいのかを調査側へ伝えます。技術上の実行可能性と、契約上の確認を両方そろえる必要があります。

外部サービスに依存するソフトウェアでは、管理用アカウントへ入れることと、契約者として利用を継続できることも別に確認します。技術担当が接続を試せたから契約の確認を省く、あるいは契約書があるから運用資料は不要と考えないようにします。実際に使う環境と、確認した文書の対象が一致しているかを、担当者どうしで照合する必要があります。

06

6.利用契約は、買収後にしたいことと照合する

他者の技術や名称、データなどを利用している場合は、利用契約を、買収後の事業計画と照合します。現在の会社や製品での利用、別会社との共同利用、新しい販売経路での利用は、同じ条件で扱えるとは限りません。記事の一般論から可否を決めず、予定している使い方を具体化し、契約に詳しい専門家へ確認できるようにします。

確認のための表には、契約の当事者、対象、使い方、期限、更新方法、連絡先を記載します。M&Aに関係する通知や承諾の検討が必要かも、専門家へ尋ねる項目にします。取引の形によって何が変わるかを確認しないまま、「会社を買うだけだから契約もそのまま使える」と説明しないようにします。条件の解釈と、相手への連絡実務は分けて進めます。

共同開発では、成果の利用だけでなく、追加開発、改良、第三者への提供、情報の取り扱いなど、今後の事業に関係する点を洗い出します。合意が複数の文書へ分かれている場合は、後から作られた文書との関係も確認します。どの文書がどの対象に適用されるか分からないまま、都合のよい一文だけを抜き出さないことが大切です。

この整理が止まりやすいのは、契約の台帳と、実際の製品・システムの管理情報が結び付いていない場面です。VERSAROCへの相談では、まずその対応付けや資料の管理方法、閲覧権限の分け方など、技術・運用上の支援を検討できます。法的な結論や権利の保証とは区別し、専門家へ正確な情報を渡す仕組みを整えることが目的です。

07

7.ノウハウは、共有すれば確認できるとは限らない

製造の条件や調整方法、営業の判断、顧客ごとの対応手順などは、登録された権利の一覧に現れないことがあります。重要な情報がどのように記録され、誰が使い、どの場面で必要になるかを確認します。文書化されていない部分はヒアリングも検討しますが、調査の名目で必要以上に詳細な秘密情報を集めることが適切とは限りません。

経済産業省と公正取引委員会は、2026年6月24日に知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引に関する指針と契約書ひな形を公表しています。案内では、権利化されていないノウハウやデータも対象として扱っています。この公表は、個別のM&Aにおける開示の可否を決めるものではありませんが、権利の登録だけに調査対象を限らない視点の参考になります。

具体的な中身を開示してもらう前に、まず情報の種類、用途、保管方法、取扱者、他者への開示の有無を確認する方法があります。そのうえで、取引の検討に本当に必要な範囲を、守秘や閲覧の条件と併せて相談します。相手が慎重な場合に、非協力的だから価値がないと評価するのでなく、代わりにどのような確認方法があるかを考えます。

情報を受け取った側の管理も調査の一部です。誰が閲覧し、何を記録し、検討が終わった際にどう扱うかを決めます。共有リンクを作っただけで権限が適切とは限らず、ダウンロードされた資料の取り扱いも論点になります。実際のデータルームや社内保管場所で、想定した制限が機能するかを確認し、説明と操作の違いを残します。

情報管理の説明は、制度があるかだけでなく、実際に誰が何をしているかへ進めます。共有先を変更したときの確認、不要になった担当者の権限を見直す方法、持ち出した資料を扱う手順などです。調査段階で詳しい情報を渡さず確認できることもあるため、技術的な仕組みの確認と内容の開示を一度に進める必要があるかを検討します。

08

8.調査の資料を、確定・未確認・判断待ちに分ける

知財DDの進捗は、回収したファイルの数だけでは分かりません。確認した対象について、資料と説明がそろったこと、追加の資料が必要なこと、専門家の評価を待つことを分けます。「確認中」という一つの状態に集約すると、誰が何をすれば先へ進めるかが見えにくくなります。対象ごとに、現在地と次の作業を説明できるようにします。

質問は、一般的なチェックリストを大量に送るより、分からないことと、事業上なぜ知りたいかを対応させます。例えば、外部の画像を使っているかを聞く場合は、どの製品ページのどの素材を指すかを示します。対象が曖昧な質問に対する「問題なし」という回答では、確認した範囲が分かりません。必要に応じて回答の対象を限定してもらいます。

IP BASEの手順は、調査の目的や費用、期間を踏まえて確認項目を検討することを扱っています。編集部も、すべての対象を同じ深さで調べたように記録することを勧めません。事業計画への影響が大きい部分、利用の根拠が途切れる部分、説明が一致しない部分を優先し、後回しにした理由と残る条件を報告へ含めます。

回答が得られなかった項目には、催促した記録だけでなく、代わりに確認した情報と、その限界を記載します。公表情報で名称を照合できても、非公開の契約条件までは分からないかもしれません。分かったことを一段ずつ積み上げ、不足部分を同じ結論の中へ埋め込まないことで、取引条件や追加調査の必要性を相談しやすくなります。

編集部作成の表:編集部提案:調査の状態と、次に渡す情報
編集部提案:調査の状態と、次に渡す情報
表の内容をテキストで読む
編集部提案:調査の状態と、次に渡す情報
状態記録する内容次の動き
資料で確認した対象、文書、版、確認範囲専門家の評価と事業への影響を対応させる
説明のみ得た説明者、日付、対象、根拠の所在必要な裏付けの取得方法を相談する
資料が見当たらない探した範囲、残る疑問他の記録や確認先を検討する
解釈を判断できない争点、予定する使い方、関係資料専門家へ問いを絞って渡す
今回は対象外対象外とした理由、影響の仮説再検討する条件を明示する
09

9.価値の説明と、制約への対応費用を別々に置く

調査結果を買収判断へ戻すときは、知財の価値を件数の合計で表さないようにします。計画している製品や顧客への提供にどう関係するか、利用できる条件をどこまで確認したかが重要です。特定の技術が必要だという説明と、その技術が他の方法で代替しにくいという評価も分け、評価の根拠を確認します。

制約が見つかった場合は、事業への影響を具体化します。追加の確認や合意が必要なのか、利用方法を変更する可能性があるのか、別の技術や素材への切替えを検討するのかで、必要な作業は異なります。対応できそうだという感想だけでなく、相手の協力、費用、日程、製品への影響のうち、何が分かり、何が未定なのかを整理します。

費用が分からない項目を、見積もり表でゼロとして扱わないようにします。見積もり依頼中なのか、方法自体を検討中なのかを明示します。知財の専門的な評価と、開発・運用で必要な変更の見積もりをつなぐことで、法的な論点だけでも、技術的な楽観だけでも決まらない計画を作れます。予定する作業が本当に利用できる条件かも確認します。

最終的な判断は、追加調査をして進める、条件を見直す、別案を検討するなど、選択肢へつなげます。一般の記事から、一つの不明点があれば中止すべきだと決めるものではありません。一方で、事業の核に関係する不明点を、成約後に調べればよいと先送りする場合は、その判断の根拠と負担を説明できる必要があります。

事業計画の変更と知財の調査結果は、更新のタイミングを合わせます。調査を頼んだ後で海外販売や新機能の追加が決まった場合、当初の調査範囲では判断できないことがあります。計画側の変更を調査側へ伝え、追加確認の必要性を相談します。以前の報告書があるという理由だけで、異なる使い方について同じ結論を引用しないようにします。

10

10.架空例:販売できるソフトと、改修できるソフトを分ける

ここからは編集部による架空例です。業務用ソフトを提供する丙社の買収を検討している丁社は、成約後に別のサービスとの連携を進める計画を持っていました。丙社の製品は現在も稼働し、顧客から利用料を受け取っています。しかし調査を始めると、主要な部分を外部へ委託して開発したことが分かり、追加改修に使う資料と契約の対応が曖昧でした。

丁社は、現在の提供を続ける確認と、新たな連携を開発する確認を分けます。契約を扱う専門家には、予定している利用・変更の内容と関係文書を渡します。技術担当者は、コードの保管場所、開発環境、外部部品、委託先が担当している運用を整理します。どちらか一方の確認だけで、新しい計画を実行できると判断しないようにしました。

調査の結果は、「自社のソフト」という一文へ戻さず、確認範囲を三つに分けて報告する形を取ります。現在の提供に関する情報、新しい連携に必要な確認、引継ぎの実行に必要な作業です。資料の不足がある項目には、誰へ何を依頼するかと、回答が遅れた場合に事業計画のどこを見直すかを付けます。実際の可否は架空例の中でも確定させません。

この例の要点は、動いている製品の存在と、将来したいことに必要な条件を切り分けたことです。買収の価値を過小評価するためでも、問題を想像して増やすためでもありません。計画に必要な問いを早く特定し、専門的な確認と技術面の調査を同じ対象へ向けることで、経営者が条件と日程を相談できるようにするためです。

編集部作成の表:架空例:同じ製品について、確認を三つへ分ける
架空例:同じ製品について、確認を三つへ分ける
表の内容をテキストで読む
架空例:同じ製品について、確認を三つへ分ける
確認の目的主な材料判断を待つ事項
現在の提供を続ける現行の利用契約、提供形態、外部依存契約上の条件と運営の継続可能性
別サービスと連携する変更したい機能、関係文書、技術構成予定する変更に必要な許諾や作業
新しい体制で保守する環境、資料、担当、引継ぎ計画実施できる権限と支援の条件
11

11.報告書には、結論へ至った範囲を残す

報告の見出しは、対象と調べた範囲が分かるものにします。「知財に問題なし」とだけ記すと、何をどこまで確認した結論なのかが失われます。確認対象、利用した資料、説明を受けた相手、対象外とした事項、専門家の見解を待つ点を分けて記載します。経営者が必要とする簡潔さと、後で確認できる根拠の所在を両立させます。

法的な評価が記載される場合は、その前提となる事実と対応させます。予定する製品や地域が変わったときに、以前の評価をそのまま使ってよいか分かるようにするためです。事業担当者が説明した使い方と、専門家が評価した使い方が違っていれば、文書が完成していても判断の材料はそろいません。用語と対象を合わせてから結論を共有します。

調査中の新しい資料で見解が変わった場合は、前の記録を黙って置き換えず、何が更新されたかを残します。追加契約が見つかった、対象の版が違った、将来計画を変更したなど、結論が変わる理由はさまざまです。資料の更新と、評価の更新を対応させれば、会議へ出た古い資料に基づく判断が続いていないかも確認できます。

取引条件へ反映する必要がある事項は、専門家へ引き継ぎます。その際に、条文の案だけを一般記事から作るより、どの事実が未確認で、どの事業に影響するのかを説明します。専門家が検討する契約上の対応と、現場で必要な準備を分けて担当を置くことで、書類には対応したが実務の引継ぎが残った、という状態を減らせます。

経営会議向けの要約には、誰が読んでも同じ対象へ戻れる程度の情報を残します。詳細な秘密情報を要約へ転載するのではなく、対象を特定する名称や管理番号と、限定した資料への参照で補う方法があります。説明を簡潔にするために根拠を消すのではなく、必要な人が必要な範囲で根拠へ戻れる仕組みを考えます。

12

12.成約前の調査を、引継ぎの実行へつなぐ

成約後に必要な管理へつなぐために、調査で使った対象の識別を残します。契約、資料、技術構成、管理担当が同じ対象を指せる状態であれば、更新や変更の際に確認しやすくなります。調査専用の一覧と運用の台帳が完全に分かれていると、成約後に同じ情報を集め直す負担が発生します。何を運用へ渡すかを先に決めます。

ただし、調査に使った資料を一括で全員へ共有することが、運用への引継ぎではありません。秘密情報や個人に関する情報、利用目的が限られる資料の扱いを確認します。現場へ必要な範囲と、専門家や限定した担当者が保管する範囲を分けます。権限を広げる際は、実際の閲覧やダウンロードの設定も確かめる必要があります。

技術面では、説明された管理方法が動くかを、適切な範囲で確かめます。保管場所へ担当者がアクセスできるか、必要な資料と実際に稼働している版が対応するか、委託先へ依頼する手順が使えるかなどです。これらの確認は、権利の帰属を判断するものとは異なりますが、確認した条件の下で事業を続けるための準備になります。

VERSAROCへの相談内容も、この段階では具体化できます。例えば、資料の識別と検索の仕組み、契約・構成情報の対応、限定した共有環境、改修前に確認する運用手順などです。最初から大きな管理システムを作るのでなく、今回の調査で止まった作業を示し、既存の道具で改善できる部分と、追加実装が必要な部分を分けて検討します。

資料の移管が必要な場合は、渡す一覧と受け取った一覧を照合します。ファイルが存在することに加え、読み取れるか、必要な版がそろうか、閲覧先の設定が意図どおりかを確かめます。機密性の高い中身を確認のために別の場所へ複製し続ける方法は避け、確認の記録と資料自体を分ける仕組みを検討します。資料の内容に立ち入る人を増やさず、移管の実施状況を確認できることが目標です。

13

13.着手前に、調査の目的と境界を確認する

知財DDを始めるときは、買収で実現したいこと、優先して確かめる対象、調査に使える日程、説明を受ける窓口をそろえます。必要な資料をすべて要求するのではなく、まず手元の資料と公表情報で分かることを確かめ、不足する部分へ質問を絞ります。相手の負担を意識することと、判断に必要な確認を省くことは同じではありません。

専門家へ相談する前に、事業の説明と対象の一覧を作っておくと、何を調べるべきかを話しやすくなります。一方、一般的な表を埋め終えるまで相談を遅らせる必要はありません。事業の核に関係する不明点や、開示の条件で判断に迷う点があれば、調査の進め方から相談する選択肢があります。社内だけで法的な結論を作らないことが大切です。

本稿の比較表や架空例は編集部の提案であり、特定の資料があれば権利や利用の安全性を保証するものではありません。公式資料から確認したのは、目的に応じた知財DDの進め方と、権利化されていない情報も視野に入れた取引に関する公表の内容です。個別案件の確認範囲は、取引の形や対象事業に応じて専門家と決めてください。

調査を終える際には、「持っていると説明されたもの」「使う根拠を確認したもの」「専門家の評価を得たもの」「運営への引継ぎを待つもの」を見分けられる状態にします。その区別があれば、残る仕事を経営判断と実行計画へつなげられます。価値のある技術や情報を、資料の数だけで判断せず、事業で使い続ける条件から確かめていきます。

根拠を確かめる

公式出典・確認済みの事実

最終確認日:2026/11/07。以下の事実を公式資料で確認しています。本文の実務上の提案は編集部による整理です。

  • IP BASEの知財DDの手順は、事業把握、調査範囲、資料確認やヒアリング等を組み合わせる進め方を説明している。
  • 2026年6月24日、経済産業省と公正取引委員会は知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引に関する指針等を公表した。
標準手順書及び解説 2. デュー・デリジェンス各論 (2)知財DDの手順 (ii)知財DDの手順毎の解説 | IP BASE - 特許庁 スタートアップの知財コミュニティポータルサイト ↗「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」及び「契約書ひな形」を公表します(METI/経済産業省) ↗

この記事は一般的な情報提供です。個別案件の法律・税務・会計・投資判断を代替するものではありません。制度や契約の扱いは、最新の公式資料および担当の専門家にご確認ください。

編集方針・訂正のご連絡について ↗
次の一歩を、一緒に考える

M&A・事業承継の検討から、
買収後の事業づくりまで。

まだ具体的に決まっていなくても。まずは、いまの課題をお聞かせください。

ご相談・お問い合わせ